「意外と怒られずにここまで来た」MOUSOU PAGER ロングインタビュー(前編)

近年のラップブームで、かつてはヘッズだったがマイクを握ってみた……という人たちも増えてきています。そんな時、「憧れのラッパーのようにラップができたら……」と思う人もいるのではないでしょうか。
そんな中、MICROPHONE PAGERへの並外れた愛情からクルーを結成、当時活動していたMCからPAGER好きまで、支持を得ている「MOUSOU PAGER」というクルーをご存知でしょうか。今回は、あのサイプレス上野さんも「その手があったか……」と唸ったという、MOUSOU PAGERのMC、Sir Y.O.K.O.PoLoGod.さんとshowgunnさんにお話を伺いました。

「妄想MUROナイト」はMUROさんの公認イベントです(笑)

—結成は「妄想MUROナイト」というイベントが出発点だったんですよね。

showgunn:そうですね。ただ「妄想MUROナイト」はもともと、DJイベントだったんですよ。

Sir Y.O.K.O.PoLoGod.(以下 Sir Y.O.K.O.):僕、showgunn、もちろんKuma the SureshotもDJをやっているので、MUROさんのmixを聞いたりして、DJであるMUROさんに影響を受けているんですよね。そういう人たちが集まって、MUROさんがかけているような曲を、MUROさんっぽくかけよう、っていうのを目指していたイベントだったんです。だから最初は全然、ラップをしようなんてことは考えてなかったんですよね。

showgunn:「妄想MUROナイト」が始まった経緯を説明すると、ある時、Y.O.K.O.さんと、妄想MUROナイトメンバーでもあるLADY-Kさんが僕のDJを聞きに来てくれたんです。そしたら、1曲かけるごとに2人が「これ、MUROさんっぽい」とか「MUROさんはこんなのかけないよ〜」とか言ってくるんですよ。

僕はMUROさんのことがラッパーとしてもDJとしても大好きで、さらにその頃TwitterでMUROさんのTweetを見て、今まで見えなかった人柄が見えたのが嬉しくて、よくRTしたり言及したりしてたんです。だから知り合いの間でも、僕がMUROさん好きなのは知られていたんです……僕はその時、別に「MUROさんっぽくしよう」という意図でDJしてたわけじゃないんですけどね(笑)

それでDJが終わって戻ったら、2人が「妄想MUROナイトっていうイベントを思いついたからやろう」って言ってきたんですよ。この人たちは何言ってるんだ、って思ったんですけど(笑)、カレンダーを見たら6月6日がちょうど空いていて、しかも金曜日だったんです。「6月6日は『MURO』の日だし、日取りもいいし、オールナイトでやろうよ」とその場でイベント名と合わせて決定して。本当にやるのかな……と思っていたのですが、そのあとKuma the SureshotとLARK CHILLOUTさんの参加が決まり、その5人で正式にイベントを開催することになりました。

Sir Y.O.K.O.:こんな感じで、どんどん話を進めていったんですけど、僕がMUROさんのマネージャーさんと知り合いだったこともあり、一応ご本人にも「こういうパーティーをやらせていただきます」っていうことはお伝えしてたんですよ。そうしたら快く承諾していただいて、最初からフライヤーにMUROさんの写真を使わせてもらったりもして……なので、MUROさんの公認イベントです(笑)

showgunn:まあ、初回からMUROさんの写真を使わせていただいているけど、一度もMUROさんは出ていないっていう(笑)

Sir Y.O.K.O.:一番最初の「妄想MUROナイト」は2014年でしたね。すごい天気の悪い日だったんですけど、今はなき渋谷のLamafaっていう小さい箱に、100人くらいのお客さんが詰めかけました。MUROさん側から入場者特典として、MIX CDとかステッカーを提供してもらったり、昔MUROさんが着ていた服とかゆかりのグッズとかを展示用に貸していただいたりして、なかなか気合い入ってたよね。

showgunn:今までにないイベントだったからか、面白がってくれた人が結構いたみたいで。DJはもちろんですが、MUROさんにまつわるトークコーナーとかもあって、もはやファンミーティングみたいな感じでしたよ(笑)僕はMUROさんのTwitterについてのトークをしたり(笑)

—showgunnさんは、その頃からKing of Twitterだったんですか?

showgunn:いや、この時からなんです。この「妄想MUROナイト」の時に、「MUROさんはKING OF DIGGIN’だから、僕も何かしらKingを名乗りたい」って言って……(笑)

Sir Y.O.K.O.:言い切っちゃえば、もうKingだから(笑)

showgunn:MUROさんのMIX TAPEって、第1弾から「KING OF DIGGIN’」じゃないですか。僕もKing of Twitterを名乗り始めた頃はKingではなかったかもしれないけど、言うことでKingとしての自覚が芽生えるわけですよ……って僕は何を言ってるんだ(笑)だから名乗ったほうがいい、ってY.O.K.O.さんに言われたんです。自分が言えば周りもKingとして扱うから……って(笑)

で、2回目が2015年だったんですが、1回目が盛況だったから今回は少し変わったことをしよう、と。それで、「ラップだ」と。

Sir Y.O.K.O.:それ、誰が言い出したんだっけ。

showgunn:Y.O.K.O.さんです(笑)僕は一度も自分からラップしたいって言ったことない(笑)

Sir Y.O.K.O.:(笑)……Twitterとかで、表立って宣伝してくれてるのはshowgunnなので首謀者と思われがちですが、イメージやコンセプトは結構僕が考えてるんですよね。僕の作ったレールに、ついてきてもらってるっていう。

showgunn:最初に「誇大妄想」って曲を作った時は、まだクルー名はなかったんですよね。Y.O.K.O.さんのバースの方が長かったですし、feat.で僕が入ってるくらいのイメージだったんですよ。でも録音して、Mixして送られてきたデータを見たら、ファイル名に「MOUSOU PAGER」って書いてあったんです。だからクルー名に関しては、話し合って決めたとかではなく、始めから決まっていたという……

Sir Y.O.K.O.:「妄想MUROナイト」のためのラップグループだったから、「MOUSOU PAGER」って名前にしました。「MICROPHONE PAGERを妄想したクルー」と言われがちなのですが、そうではなくて、あくまでも「妄想MUROナイト」の「妄想」をとってるんですよね。

showgunn:……まあ、どうでもいいんですけど(笑)

Sir Y.O.K.O.:その後は、「#Hug_life」っていうイベントの特典のために「Hug Night」(MICROPHONE PAGERの『TWO NIGHT』のオマージュ)っていう曲を作ったり、MUROさんのDJ活動30周年イベントの特典として、「真ッ黒ニナル過程」(MUROの『真ッ黒ニナル果テ』『真ッ黒ニナル迄』のオマージュ)を作ったり。基本的にイベントのために曲を作っていました。

showgunn:そうそう、MUROさんのDJ活動30周年イベントの時、恐れ多くもラウンジを「妄想MUROナイト」メンバーが任せていただいたんですよ。僕らもDJやライブをやらせてもらいました。メインにはMUROさんはもちろん、NYからのゲストでDJロッキン・ロブとKプリンス、KOCO a.k.a. SHIMOKITAなどそうそうたるメンツで、ラウンジにはゲストDJにWATARAIさん、トークゲストに荏開津広さん、サイプレス上野くんをお呼びして。

—ということは、MUROさんも、皆さんのライブをご覧になったんですか?

Sir Y.O.K.O.:MUROさんはそのフロアを通りはしたんですけど、それだけなんですよ。中身を見るのはやっぱりMUROさん的に怖いらしくて。

—(笑)

showgunn:そのイベントでは、ウーロンハイならぬ”ムーロンハイ”を買うとおまけでステッカーがついてきたんですけど、MUROさんのステッカーが4種類ある中に、1枚MOUSOU PAGERのステッカーがハズレで入ったり(笑)そういう感じで僕ら、意外と怒られずにきたんですよね。

Sir Y.O.K.O.:我々も大人ですけど、それ以上の先輩方に良くしていただいているというか、守っていただいているのかもしれないですね。

面白がってくれる人が、こんなにいるって思ってなかった

Sir Y.O.K.O.:ここまではイベントのためにしか曲を作ってこなかったんですけど、2016年にLEXINGTON(MANHATTAN RECORDINGS)から、MOUSOU PAGERでアナログをリリースをしないかっていうお話をいただいたんです。僕の中では、「真ッ黒ニナル過程」まではMICROPHONE PAGERに則って作っていたようなところがあったんですけど、この辺りから、少しスタンスが変わってきて、どちらかというとMOUSOU PAGERとしてのオリジナリティをちょっとずつ出していけたらいいな、と思い始めました。

リリースのフォーマットは、90年代HIP HOPのイメージから12inchを選びました。その時の新曲だった「鸞翔鳳集」をA面の1曲目にして、その次に、一番最初の曲「誇大妄想」のリミックスをillicit tsuboiさんにお願いして収録しました。ただ、オリジナルバージョンは入ってないんですよ。昔の12inchって良くわからない収録の仕方をしているものも結構あって、リミックスは入ってるけどオリジナルが入ってない、とか良くあったので、そういうところもこだわりたくて。

showgunn:あとはわざとミスをしたりもしましたよね。MICROPHONE PAGERの「鬼哭啾々」のジャケットってミスプリントがあって、曲の一覧には「アカペラバージョン」が書いてあるのに、実際は収録されてないんですよ。「鸞翔鳳集」のジャケットでは、それをそのまま真似たりして、誰も気がつかないようなところにこだわってました(笑)

Sir Y.O.K.O.:レコードはありがたいことに、販売分の300枚が完売になりました。本音を言うと売れるか不安でしたけど(笑)

showgunn:僕ら、Y.O.K.O.さんのお店(Sir Y.O.K.O.氏はレコードショップ勤務)以外で、店頭に並んでるの見たことないんですよ。

—初めはイベントのために生まれたクルーでありながら、それだけ活発に活動をされるようになったきっかけやモチベーションは何だったのでしょう?

showgunn:意外とウケたから、もうちょっとやってみようか、みたいな感じが強かったですね(笑)。初めはイベントのために曲を作っただけだったから、まさかこんなに活動が続くとは思ってませんでした。僕自身は“ラッパー”というより、MOUSOU PAGERという、ちょっとおかしな……ある意味では非常にコンセプチュアルな(笑)グループのラップ担当、みたいなイメージなんですよ。リリック自体も、MUROさんの言葉からイメージを広げて、MUROさんっぽくラップをするっていう感じだから、普通のラッパーの人みたいに、普段思っていることや感情とかをラップにしているのとは全く別の作業なんですよね。

Sir Y.O.K.O.:だから、showgunnに関しては、「楽器」ってイメージが近いかもしれないね。担当しているパートが、「MUROさんみたいなラップをする」っていうことだった、っていう(笑)

showgunn:そうですね。だからいわゆる”ラッパー”ではないかなと思いますし、普段はただのサラリーマンですけど、任されたパートは一生懸命やってます。ラップを褒められると嬉しいんですけど、今でも不思議な気持ちになりますね(笑)

Sir Y.O.K.O.:トラックのイメージとか作品のイメージは、Kumaくんと僕が考えているっていう感じ。showgunnがMUROさんで、僕がその他のTWIGYさん、P.H.FRONさん、MASAOさんの3人のリリックを研究し、分解して組み上げています。

—編集に近い感じですね。

showgunn:そうですね、書いている中でこの引用をしたらハマるな、っていうのではなくて、引用ありきで作って、それをMUROさんっぽいフロウでやる。うまいラップがしたいっていうことではなくて、MUROさんみたいにラップする、っていうことが目標なので。

Sir Y.O.K.O.:やっぱりMICROPHONE PAGERは憧れなのでね。それを面白がってくれる人が、こんなにいるって思ってなかった(笑)

(聞き手:Yasco. KANEKO THE FULLTIME 構成・文:Yasco.)

▼後編

「『その程度のPAGER好きで、”MOUSOU PAGER”を名乗るな』とだけは言わせない」MOUSOU PAGER ロングインタビュー(後編)