【特別対談】ICE BAHN ×細川貴英(後編)「お互いがお互いを研究して、切磋琢磨した結果こうなった」

”韻研究家”細川貴英氏をインタビュアーに迎えた、ICE BAHN 4氏のインタビュー。後編では、ずっと日本語の韻・ライムを追求してきたICE BAHNのみなさんの想いや、今後のクルーの展開についてお聞かせいただきました。

▼前編はこちら

【特別対談】ICE BAHN×細川貴英(前編)「サンプリングしたスネアに一番合うのは『カ行』と『タ行』」

「韻を踏む」っていうところに新しい概念を入れ込みたかった

細川:ここ2年くらいで新しくラップに興味を持った方もたくさんいると思いますが、世の中の韻に対する理解度を僕は「韻リテラシー」って呼んでいるんですけど、ここで踏んでいるなってリスナーの方が分かってくれる能力って、ここ数年で変わってきていると思いますか? またその辺りをどの程度意識して韻を踏まれているでしょうか。

KIT:俺は絶対わかりやすい方がいいと思うんですよね。難しく考えてもいいけど、表現としては明らかなものがいいと思っていて。できる限り簡単に、難しくしないように難しく作る、っていうのが俺はいいかな。
だからすごい言葉が少なくなるんですよね。歌わない場所がすごい多かったり、いきなり1拍目から入らない、みたいな暴挙に出たりして。みんなに「入れないでいいの?」って言われるけど、あえて空白を開けたりしていますね。

FORK:俺はわかりやすくするとかっていうのは別にないですね、基本的には。やっぱり俺がラップを好きになった時も、掘り下げていって、後からライムに気づいた方が上がってた、っていうのがあるので。どちらかというと文章として破綻しないように作って、オチやフリがある中にどれだけ韻を散りばめられるか……という感じなので、特にわかりやすくすることは考えずにやってますね。

細川:じゃあこれに関してもKITさんとは正反対ですね。

KIT:刻み方が俺とかはドンドンドン、って感じだけどFORKとかはかなり細かく刻んで踏んでいくから、まるで作り方が違う。俺とかはすごい大味だもん。だから言葉が超重要になってくるっていうか。

玉露:俺は、わかりやすさの点で言えばFORK寄りで、あえてわかりにくくしてやろう、くらいに思ってますね。(咳払いをして)あ、例えば今みたいに「ゴホン」っていう音が入ってくるとしたら、そのあと「咳払い」で韻を踏んでみる、みたいな仕掛けは入れています。言葉で踏むというより、入っている擬音を言葉にして韻を踏んでいくとか、そういうのが好きですね。

細川:「真夜中の談義」ですよね。

玉露:そうそう、口笛でウグイスの鳴き声を入れて、そのあとに「ホーホケキョ」の母音で踏んでいく。踏むっていうところに新しい概念を入れ込みたい、ってその時すごく考えていて、それこそ動詞・名詞・助動詞・接続詞みたいなものとは、別系列のものを持ってきたかった。

細川:確かに、あれは誰もやってないですよね。

KIT:あんなことやるやつ、いないですよ……(笑)

細川:「コンプラ」とか、ピー音で聞こえない部分の韻をなんだろうって考える人はいると思いますけど、ああいう仕掛けを入れている人は初めて見たので、感銘を受けました。

玉露:そういうのもっと言って欲しいよ、俺からは言えないから(笑)。みんなリテラシーが低いんじゃない?(笑)

細川:そういうお話だったり、韻についてよくお話をされる方っていらっしゃいますか?

玉露:以前YOWTHの曲に「仕掛けない/詞書けない」っていうバースがあって、それを聞いたときに、韻に対して近い価値観を持ってるな、と思ってすごく仲良くなりましたね。そういう意味では、韻踏合組合とYOWTHとは会ったときからずっと仲がいい。あとだるまさん……OHYAとも、20代の頃、韻の話をしたこともあったな。

FORK:俺はあまりしないですね。こういう機会にはもちろん話すんですけど、言わずに気付かせたいですし、一番こだわっているからこそ、直接口には出さない。

KIT:俺は「聞いてよ!」ってなっちゃうけどね(笑)。昔ね、YOWTHが曲を作っていた時に、「書けば書くほどどんどん固くなっていくわ」と言ったことがあって。俺は韻をとにかく踏みまくる時期を経て、新しいスタイルを見つけたくらいの時だったんですけど、その時に「さらに固くなっていくわ」って言われた、その言葉が超かっこいいな、って思ったんですよ。そうしたら、その「固くなっていく」って言葉をピックアップして韻を踏みたくなっちゃう。もう、「この言葉、聞いてよ!!」って感じですよね(笑)こう話すと、3人ともホント全然違うんだね。

玉露:そうだ、俺は餓鬼レンジャーのYOSHIくんとも韻の話をして、結構近い感覚だなと思ったな。あと話したことはないけど、LITTLEくんも独自の理論を持ってるのかな、と思った。

細川:LITTLEさんとお話させてもらったことあるんですけど、理論とかはないっておっしゃってましたね。そもそも母音の意味がよくわからない、って。

玉露:……嘘でしょ?(笑)リリックを頭の中で書いていて、紙に落とさないとか言ってなかった? 俺、あれも嘘としか思えないよ(笑)そんなことある?

KIT:LITTLEくん、そういう逸話多いよね(笑)。

玉露:でもFGの人たちは「嘘なんじゃねえの?」っていうことも、本当にやりかねない部分があるよね(笑)。

—先ほどYOWTHさんのお話が出ましたが、ご自分のでも他の方のでも、「お気に入りのワンバース」ってありますか?

KIT:あるある、でも、すげーたくさんあって出てこない……

FORK:昔は、言葉の区切り方を毎回変えて踏む、っていうのをやってましたね。(お茶を見て)例えば「伊右衛門」って言葉だったら、「いえもん」「い・えもん」「いえ・もん」「いえも・ん」みたいな感じで。
「越冬」のバースでも、”言葉を入れ替える”みたいなことをやっていました。「生活が逆転して活性化(越冬)」は文字通りの意味と「せい・かつ」を逆転させて「かっ・せい」っていうダブルミーニングがあったり、その後に続く「いつか成果/出れば達成感/まるで活性炭」では、「たっせいかん」「かっせいたん」って「か」と「た」を入れ替えて踏む、っていうのをやっていたんですよね。最近ではやらなくなったけど……頭おかしいっすね(笑)

細川:FORKさんしかやっていない言葉遊びですよね。

FORK:「生活が逆転して活性化」に関しては、当時どうしても伝えたくて、歌詞カードの「せい」「かつ」の所に矢印を入れられないか? って言ってたんですよ。結局我慢しましたけど……結果、なかなか伝わってないですね。

玉露:俺は、LITTLEくんの「たまたまいる/たまったマイル(HANDS/KICK THE CAN CREW)」には「おっ!」て感じましたね。やっぱ同音異義語好きなんですよ。

細川:同音異義語は、「STARTREC」でFORKさんも極めてらっしゃったようなイメージでした。

FORK:そうですね、そこの気持ち良さはあったっすね。昔、ミンちゃん(Minchanbaby)が「転校生」って曲をやってて、「美味しいお菓子付きの加湿器/可愛い女子付きの除湿機」とか、同音異義語のライムをいっぱい並べてるんですよ。2分くらいの曲なんですけど、初めて会った時にその話をしたら、構想から1年半かかったって言ってて……やばいなって思ったっすね。

玉露:その当時の我々は、ダジャレ感をなくすためにあえて同音異義語を避けてたんですよ。でも韻踏と出会って、彼らはあえてそこを行ってた、ってところにすごさというか太さを感じましたね。OHYAが、「『イワシ、タイの差/言わしたいのさ(DOUMO/NOTABLE MC)』っていうラインが俺の一番のお気に入りやな〜!」って言ってて、すげえなって思った。

FORK:同音異義語もそうだし、韻も限られてくるから、当時は”取り合い”みたいな風潮はあったっすね。先に言ったほうが勝ち、じゃないけど。だから、音源を聴くときも、他のやつが同じ韻を踏んでないか? っていう聞き方をしてたかもしれないです。最近は、俺自身は「韻」がかぶってたとしても「ライム」としてはかぶってない、という気持ちがあるから、そういうチェック的な聴き方はしなくなりましたけど。

ダンジョンは「俺の負けはICE BAHNの負けだ」と思ってやってる

玉露:逆に、我々ならではの韻って、何かあるんですか。

細川:そうですね……スタイルは今に至るまで変わっている部分もあると思うんですけど、僕としては「STARTREC」がやっぱり衝撃で、”韻濃度”……韻に関与している母音の多さがすごく濃いですし、韻を踏んでいない箇所が圧倒的に少ないじゃないですか。そこが他のラッパーと明らかに違うところだなと思いました。

玉露:HIP HOPとか、韻とかって、俺らが作ったものじゃないけど、「全踏み」っていうのは俺らが作ったんじゃないかと思う。だから、ゼロイチで何かを作ったわけではないけど、1から10になる過程で、日本語の韻っていうものに貢献していると自負してる。だから「STARTREC」は、もうちょっとお金が貯まったらギネスに申請しようかな(笑)

細川:「STARTREC」時代と比べると、FORKさんはそのあたりの考え方が少し変わってきた、という感じですよね。

FORK:そうですね。「踏む」ということに快感を覚えてやり続けた結果、数よりも質というか、一個一個の気持ちよさ、っていう方向に行ってますね。当時は数踏むことがオリジナリティだと信じてやっていて、今は今のやり方がオリジナリティだと思ってやっている。結局行き着くところはオリジナリティだと思うんですよ。「こいつがやばい」と思われるのって、他とは違うってことだから。

玉露:1つだけ声高に言っておきたいのは、「よくそんな3人が集まったよね」って言われがちなんですけど、お互いがお互いを研究しあって、お前がそうくるなら俺はこうする、って切磋琢磨した結果こうなった、っていう自負があるんですよね。一緒に努力をしてきた、っていう自信があるし、強みだと思う。だって小節もわからない奴らが集まって始めたんだから。今俺ら、小節知ってるもんなあ(笑)

FORK:俺は知ってましたよ(笑)。俺、最初はDJから入ったんですよね。だから、イントロが8小節、フックが8小節……っていうのを知ってて、持ち込んだって感じですかね。

玉露:衝撃だったなあ。

FORK:俺も、数踏まないでオチつけるようになったのも、ひょっとしたらギョクさんのラップとかとの対比があったからかもしれないですね。ギョクさんが全踏みしてくるなら、俺はこっち、みたいな。俺のラップがローなテンションにいってるのも、2人がいるからかもしれません。昔はもっと張ってたし、その前のグループでは俺、がなり声で……GORE-TEXみたいな感じでラップしてたんですよ。3人でやっていく中で、自分の形ができてきたんだな、って今思ったっすね。

KIT:確実に互いの影響はあるよね。だから離れてて当たり前なんだよ、俺とFORKって。意図的にそうしている部分もあるし。

FORK:誰かの真似をする、特にこの3人の中で真似をするなんてこと、絶対にありえないというか。

玉露:いい話だね。今巷で注目されているフリースタイルダンジョンのモンスターの中で、FORKが圧倒的に他のMCと違うのは、ソロじゃないってところだと思うんです。他のみんなは、メインはソロ活動だと思うんですよ。でもFORKはソロでライブはしていないし、常にICE BAHNっていうものがあるからこそ、他のモンスターと違う部分が見せられているのかな、と思いますね。

細川:ダンジョンでも、ICE BAHNの一員であるということは意識されていますか。

FORK:そうですね。まず最初にオファーを受けた時、知らない番号から電話がかかってきて、出たら「Zeebraですけど……」って。「FORKにモンスターをやってほしい、崇勲や輪入道は二つ返事でやるって言ってくれたんだけど、FORKはどうかな」と言われて。
俺もキングギドラから入ってるから、そんな人から頼まれたら断れないとも思ったし、やりたい思いももちろんあったので、二つ返事で「はい」って言いそうになったんですけど、やっぱり「1回持ち帰らせてくれ」って言って。メンバーと話してからオファーを受けたい、って言いましたし、番組の人たちにも、必ず俺の名前の後ろには“ICE BAHN”ってつけてくれ、っていう話もしました。

それで出演している、っていうところがあるので、やっぱり俺はソロじゃないし、あそこでやる以上は、俺の負けはICE BAHNの負けだ、って思ってやってもいるし、俺の姿勢や見え方=ICE BAHNだ、っていう風に思ってるっすね。そういうところは一番気にしているかもしれないです。

細川:ダンジョンのお話を始めて聞いたとき、メンバーの方々はどういうリアクションでしたか。

玉露:……泣けるな、今の話。

—(笑)

玉露:今の話は初めて聞いたよ。

FORK:ちょっと、ふざけられなくなっちゃうじゃないすか(笑)

玉露:いい夜だなあ。

FORK:……っていう感じです(笑)

玉露:でもね、俺は、「Zeebra、遅えよ!」って思いましたよ。フリースタイルダンジョンが始まった時に、FORKより弱い奴ばっかじゃん、って俺は思った。でもフタを開けると、番組の構成がものすごく考えられてるんだな、と気づいたし、なるほどな、と思う部分もあったんですが。
我々は今まで、例えばオープンマイクとかでも、「今出たらイケてるな、ダサいな」っていうタイミングにすごいこだわって、嗅ぎ分けてたんですよね。それだからか、そういう星廻りはすごく良くて、結果、FORKにオファーがきたっていうのは、俺たちも持ってるし、FORKもイケてるな、って思いますよ。で、今の話があって……泣けるなあ(笑)

FORK:……もう、何も喋れなくなっちゃいますね。

—(笑)

玉露:おい奉行、金返してくれよ。

奉行:全然繋がってないですけど、話が(笑)

細川:クルーとしての今後の方向性や、目標や夢はありますか。

玉露:今、FORKをはじめ、いろんなオファーが来るようになって、過去の俺らからしたら大きいお金を持っている状態になったんですよ。それでもやっぱり、ダサいことは絶対やらない、っていう信念を改めてみんなで確認できているかな。だから自分たちが考えるカッコいい道を、一生やっていきたいですね。
みんなそれぞれ……奉行は俺にパラサイトしているけども……独立した生活ができているから、お金でもめることもないだろうし、好きなタイプもみんな違うから、女でもめることもないだろうし、音楽性も一緒だから、一生仲良くやっていきたい。

奉行:パラサイトっていうのは載せなくていいので……(笑)

FORK:ラップに関しては、自分がかっこいいと思うもの、やりたいと思うものしかやりたくないんです。例えば取材で、「○○っていう流行語を使ってラップして」とか言われたときに、そこでカッコいいものが出せればいいと思うんですけど、俺にはどうしても、そこでいいものを出せる気がしないから、そういうものは全部断ってるんすよね。そういう、HIP HOP、B-BOYとしての姿勢みたいなものも、色として見せていきたいですね。

玉露:渋いな。

FORK:そういう姿勢があって、初めて言葉にも力が生まれるような気がするというか。

玉露:このメディアを読んでいる人の中にはサラリーマンの人も多いですよね? サラリーマンの人も、もしラップしてるって言ったら、忘年会とかの会社行事で「”YOYO!!”ってやれよ」って言われるようなこともあると思うんですよ。サラリーマンはさ、権限のある上司から言われたら、「ふざけんなよ」とはやっぱり言えないじゃない。仮に読者の方の中に、そういうことを振っている人がいたとしたら、本当にやめた方がいいですよ。HIP HOPを本気でやっている人は、人生捧げている人だから。そういう人を軽い気持ちで茶化す人がさらに増えてきたな、っていうのが俺の実感。だから、そういうのは勘弁してくれねえかな、って感じ。これからもっとHIP HOPが広まってって、それこそFORKがどこぞの居酒屋で、酔っ払いに絡まれかねないなって危険視してるんですよ。

FORK:よく例えとしてあるけど、「ラッパーに『ラップしてみろよ!』って言うのって、風俗嬢に『今ここで舐めろ』って言ってるのと一緒だよ」って話ですよね。だったらちゃんと個室用意して、シャワー浴びてこいよ、っていう。

KIT:一番得意なジャンルが出たね(笑)。本当FORKはこういうネタで書いてって言うとすっごい早いし、しかも完成度高い。

当時は「HIP HOPは韻を踏むこと」っていう契約書しかなかった

細川:今後の韻の未来について、どうお考えですか。

玉露:今はまだ、韻がすごくてもあまり評価されないというか、韻の身分がまだ低いと思う部分もありますね。例えばトラックがすごかったら世界で評価される可能性があるけども、日本語の韻がすごくて世界に行く……っていうのはちょっと考えにくいし、少なくとも俺の頭じゃ考えられない。でも日本の中では、もっと韻のリテラシーが上がってくれば、俺らの評価ももっと上がってくるはずだし、過去の日本語HIP HOPも注目されてくるんじゃないかな。

細川:僕はそこをライフワークと捉えていて……ラッパーの方が自分で踏んだ韻の解説をするのってサムいことだと思うので、僕は説明をする側に回ろうと思って今の活動をしているんです。”韻リテラシー”は本当に、ここ2年くらいで上がっているとは思いますが、今後も引き続き上げていきたいなとは思っています。

KIT:俺は”ミュージック”として、FORKが言ってたように、韻だけじゃなくてライムとして完成させる、っていう部分がすごく重要じゃないかな、と思いますね。ラッパーだったらみんなそれを思っているはずだし、リスナーがその形を理解していってくれれば、壁はないんじゃないかなと思いますね。

FORK:結局その時に、誰が一番すごいものを見せられるかで変わってくるわけじゃないですか。ライムって意味でも、どういうライミングをする奴が出てくるのか。すごい奴が出てきて、それがスタンダードになったとしても、後になるとスタンダードじゃない方にスポットライトが当たってくる……というループになると思います。今は、俺がフリとオチを大事にして、韻の数自体は減らして、内容で刺す、みたいなことをしているけど、もしそれがスタンダードになったとしたら、その後には全踏みが囃し立てられる時がくるだろうし、シーンにも、俺らの中にも、そういう対比があっていいと思うんですよね。

KIT:聞いててフレッシュかどうか、だと思うんだよね。さっき言ってた、スポットライトが交互に当たるっていうのは、フレッシュさをお互いに保つために絶対必要だし。

玉露:韻を分解したりして解説してくれる人がいるのはすごくありがたいんだけど、分析したり、それを読んだりしただけで、俺らを分かったつもりにならないでほしい、というのはあります。だって、「こうすれば踏める」っていうのがわかっても、それでも真似できないと思うんですよね。それは俺がやってみてもできなかったんですよ。昔のFORKには勉強しないと勝てねえなと思って、字面にして分析して研究……とかもしたんだけど、構造がわかってもできないんです。

KIT:昔のFORKはやり口が強引だったよね。その言葉……例えば「パソコン」のイントネーションがあるじゃん、それを韻の都合上平気で無視して、その前の言葉のイントネーションで思いっきりくるからね(笑)。すごかったよ。

玉露:そういうのを含めて、一時期は韻のことを考えすぎて病んでしまったこともあって……「もう寝るわ、おやすみ!」って言ったら「おやすみ」でずっと韻踏んじゃって、全然寝れない、とか(笑)。特にバトルの前だといろんな言葉で韻を考えちゃって、韻に酔っちゃうというか、そういうのが嫌になった時期も正直あったかな。

……最後に、俺から逆に1つ聞かせてほしいんですけど、韻踏まないラップは、HIP HOPだと思いますか。

細川:僕ですか……韻踏まないラップもアリだと思いますけど、僕はたぶん好きになれないかなと思います。

玉露:まさに今おっしゃった通りで……俺らは、「HIP HOPは韻を踏むこと」っていう契約書を交わして、サインしたんですよ。でも今おっしゃったように、今はほとんどの子が、「韻を踏まなくてもいい」っていう契約書にサインしている。踏んでもいいし、踏まなくてもいい。その契約書があったんなら、先に見せて欲しかったな、って思うんですよね、今(笑)

KIT:え、今?(笑)

玉露:俺らが提示されたのは、「韻を踏むこと」って契約書だったんですよ。でも、もうサインしちゃったから。

FORK:でも、その契約書だからサインしたんじゃないですか。裏を返せば。

奉行:そういうことですよね。

玉露:奉行、いきなりグッときたね……「契約書」とかいう言葉に敏感すぎない(笑)? ……でも、俺はわかんない。もし「韻を踏まなくてもいい」っていう契約書があったら、そっちにサインしてたかもしれない。まあ当時はね、1つしか選択肢がない契約書だったから。でも、もっと選択肢があったんだったら、聞きたかったなって。話だけでも。

FORK:それは韻を踏みすぎた結果じゃないですか。そこに苦しんできたから。

玉露:そうだなあ。「あ、踏まなくても良かったんだ」っていうさ、「言ってよ!」っていう。……あ、以上です(笑)

(企画・構成:KANEKO THE FULLTIME 文:Yasco.)

▼ICE BAHN プロフィール

玉露(ギョクロ)、KIT(キット)、FORK(フォーク)の3MCとDJ兼トラックメーカーのBEAT奉行(ビートブギョウ)の4人組から成る神奈川のHIP HOP CREW。メンバーそれぞれが96年頃からキャリアをスタートし、2001年に結成。

現在までにアルバム4枚、ミニアルバム、シングル、12inchアナログ、7inchアナログを各1枚づつリリースし幅広いアーティストとコラボレーションを実現。オーバーグラウンド、アンダーグラウンドの両サイドからの評価と支持を獲得している。

そのラップスタイルはMCバトルでも他の追随を許さず日本におけるMCバトルの黎明期を支え多くのフォロワーを生んだ。
2001年のB-BOY PARKに始まり、出場する事自体を「反則」と言わしめた三人制MCバトル「3ON3」での優勝や日本最大のMCバトル「ULTIMATE MC BATTLE2006」をFORKが制したのは語り草だ。
また 2013年には「As ONE」の初代チャンピオンに輝き健在ぶりを魅せつけた。

ライブ活動も横浜元町THE BRIDGE YOKOHAMAの第4土曜日CLEAN UPを拠点に全国各地で精力的に行い、ライブ会場&HP限定発売の音源「現盤」を発表するなど現場への愛を欠かさない。
2017年にはテレビ朝日にて、放送中のフリースタイルダンジョンに出演しICE BAHNの名をさらに広め、同年8月からはメンバーのFORKがフリースタイルダンジョン2代目モンスターとしてレギュラー出演中である。

Webサイト:http://www.icebahn.com/
Twitter:@ICE_BAHN

▼細川貴英 プロフィール

三重県出身。著書は「声に出して踏みたい韻」「微積で解いて得する物理」
本業がWebエンジニアであることを活かし、韻の検索サイト「韻ノート」を開発し話題に。
Twitter: @takahide_h