「楽しみ方を忘れたら終わりだな、って思う」 PONYロングインタビュー(前編)

この度、「BRT101」は、「やりたいことをやる人生」に一歩踏み出す人を応援するインタビューメディア「SUKIKATTE」としてリニューアルいたします。
「SUKIKATTE」といえば、ラッパー・PONYさんの楽曲。そのタイトルをお借りするにあたって、PONYさんにインタビューを実施。PONYさんのキャリアや、HIP HOPを通したこれまでの価値観、また「SUKIKATTE」の楽曲について、お話を伺いました。

「自分の内側にあるものをHIP HOPを使って表したい」と思った

—PONYさんのこれまでのキャリアについてお伺いできますでしょうか。PONYさんがB BOY PARKで優勝された時(2011年)、PONYさんのスタイルはものすごく革新的なものだったと思うのですが、PONYさんがHIP HOPを始めたルーツはどこにあるのでしょうか。

KTY(カイトザヤイバ)っていうMCがいるのですが、17歳の頃、地元の友達 (彼もラッパーで、現在も”NAIKI”として活動中)と一緒に彼が主催するイベントに遊びに行ったんです。その時に観たライブはめっちゃ面白かったんすけど、何を思ったのかその時、「これ多分、自分がやったら、もっとやばいものができる」って根拠のない自信が湧いてきたんですよ。そん時の「自分の内側にあるものをHIP HOPを使って表したい」と思った”現象”がきっかけで、ハマっていったんじゃないかな。プロになるぞ、とか、これでメシを食うんだ、とかそういうものではなくて。

そうして自分がラップをするようになってから、KTYと一緒に、新譜やまだ知らない曲をそれぞれ持ってきて聞き合う、でフリースタイルする、っていうのをずっとやってました。あと、HIP HOPのイベントに行って、かっこいいライブをしているMCを見ると、その感動をラップで伝えにいきまくってたんですよ。その人がタバコを吸ってるところに行って、流れてる音楽に乗せて「さっき超ヤバかったぜ!」みたいなことを俺がラップで投げかけると、相手のアンサーがラップで返ってきて、「おおやっぱヤベえ!!」とか言ってるうちに周囲の奴らも入ってきて……って感じで、もう延々とラップが続くみたいな(笑)

そういうやり取りがあったおかげで出会いもすごく増えたし、相手が聞いてくれている分、こちらも「食らわせたい」っていう想いがあるから、自然と次のラインが出てくるようになってきて。そんな中で、ラップの仕方を覚えたかな。
韻を踏んで、このタイミングでこの言葉を置いて、みたいに考えるやり方もあるとは思いますけど、それだと自分の言いたいことあまり言えねえな……ということも、フリースタイルで遊んでいる中で実感しました。あと、その時クラブでかかってる音はHIP HOPに限らなかったから、ジャンル構わず、いろんな音で遊ぶことができて、それを通して俺は「音が見えるようになったー」って思ったんです。

その時思っていることをピュアに吐けるから、俺はフリースタイルがすごく好きです。会話の中で疑問を振られて、「でもそれってこうじゃない?」というひらめきがあった瞬間をラップすることが楽しいし、それに対する周りのリアクションや一体感もあって、それを財産に感じられる。だからずっと続けていけるな、と思います。
とはいえ東日本大震災の後、気分が落ち込んでしまって、一時期は音楽を聞くのもきついことがありました。でもステージ上で、きつかった気持ちを「楽しい」に変えられた瞬間があって。その時に、自分にはライブや音楽がないとダメだし、音楽があれば結構最高だな、と再確認しました。そこで音楽が、HIPHOPが、人生の一部だな、ってことを確信できたように思います。「これをやるために生きてる」っていうと極端ですけど、やっぱりHIPHOPがないと心が満たされないんですよね。

—PONYさんのキャリアの中で、stillichimiyaとして活動されていた時期があったかと思いますが、stillichimiyaの皆さんとの出会いについてもお伺いできますでしょうか?

まず、所属云々とかではなくて、stillichimiyaを俺は“現象”だなと思っているんです。彼らは一宮町の出身で、2004年の合併でその町が笛吹市に変わってしまった。でも自分たちの中ではまだ町はなくならない、だから「still」ichimiyaと名乗っているわけだけど、stillichimiyaはそうした状況の中で生まれたひとつのムーブメントとしてとらえています。

俺自身とstillichimiyaとの出会いは、KTYに「めっちゃ面白い奴らがいるから、PONYも遊びに行こうぜ」と言われて、一宮のYoung-Gのスタジオに連れていかれたのがきっかけでした。その時には彼らの1stアルバムも出ていて、「とりあえずこれを聴け」って言われたのが、和太鼓だけのトラックで「一宮!合併!反対!反対!」っていうサビの曲で(笑)。以降、そのスタジオに遊びに行くようになって、一緒に曲を作ったり、あとずーっとみんなでストリートファイターやったりとか(笑)。それから1年くらいの間に自分を含めみんな東京に出てきたんですが、東京でもずっと、一緒に遊んだり、曲を作ったりしていたのは彼らでした。その時に「2枚目のアルバムを出そう」という話があり、俺もアルバムやライブに参加するようになったんです。
ただ徐々に山梨に戻っていくメンバーもいる中、2009年、stillichimiyaがMary Joy Recordings(レーベル)に所属することになりました。その時、俺は東京にいたし、レーベル所属のタイミングで彼らのもともとのルーツである、一宮出身の幼馴染ソウルや音楽性というのをはっきりさせようとしていたこともあって、その時点から俺はstillichimiyaではなくなりました。みんな、自分より3つ年が上の人達だったんで、俺からすると「親戚の兄ちゃんたち」みたいな気持ちを抱いていましたね。本当に、いろんな遊びを教えてもらいました(笑)

ムーブメントという意味で言うと、山梨出身の映画監督・富田克也が、「サウダーヂ」っていう映画で”山梨”を取り上げる時に、実際にその町の人を使って撮りたい、ということで、ラッパーとしてstillichimiyaのメンバーが出演をしていました。最近だと富田さんの映画、「バンコクナイツ」でスタジオ石が撮影、Young-Gが音声を仕切る、みたいなこともあって。そうなると、富田さんのような人もメンバーでこそないけれど、stillichimiyaの現象の中にいるわけですよ。だから、stillichimiyaは、既存の「クルー」みたいな枠でとらえちゃいけないんじゃないかなと解釈しています。

HIP HOPで得た概念やフィルターが、人生の基準になっている

—今は山梨にお住まいとのことですが、いつ頃東京から山梨に戻られたんですか?

東京に出たのは20くらいの頃でした。今地元に戻っているきっかけになったのは2011年の震災でした。それまで地元は、退屈な場所だと感じてしまっていてあまり好きではなかったのですが、震災後に富士山が噴火するかもしれない、という話が出ていたこともあって、超個人的にですけど結界を張ろうと思ってこちらに戻ってきました(笑)結界っていっても祈りぐらいなものだけど。
ただ、人生だったり、自分のやりたいことって結構流動的だと思っているので、自分でもこのままずっと地元に住むかどうかはわかりません。やりたいことややるべきことがあれば、それに合わせしかるべき場所に住むだろうし、死んだらどうせ土に還ると考えると、縛りやこだわりはできるだけ持たないようにしよう、と心がけていますね。

—「縛りを持たない」というところでいうと、この前のB BOY PARKでのPONYさんのバトルがとても印象的でした。語弊を恐れず言うと、最近のMCバトルでは勝利を得るために、ある種テンプレート化したラップをしてしまっているMCも多いと感じるのですが、そうしたバトルが増えている中で、PONYさんの「約束の土地まで勝手にいこうぜ」というラインに感動しました。「約束の土地」という目的地・ザイオンを示しながら、そこに「勝手に」行こうぜ、というところにPONYさんの考え方が出ているように感じます。

あの時バトルでも言いましたが、楽しみ方を忘れたら終わりだな、って思うんですよね。
今のMCバトルは、個人的な意見として言うと、誘われて出る事も多々ありますが、正直本当に面白くないと思います。打破する方法はいくつかあるのだろうけど、現在の状況はプレイヤーではなくて、オーディエンスが求めてああいう現象が出来上がってる気もするんですよ。MCバトルっていう、ひとつのショーみたいなものを求めている人たちの考えが具現化されている部分が大きいなと思う部分があるから、あまり面白くないと思っちゃうのかな。

俺がMCバトルに自分から出るようになった頃は、そこにMCがたくさんいたら、「じゃあ1万円ずつ出せよ、勝ったやつが総取りな。じゃあDJ、ブレイクしてくれよ」っていう”ノリ”で、MCたちが楽しいと思うからステージに上がっていたし、みんなのスタイルも自由だった気がします。もはや8小節2本勝負、っていう縛りもいらないんじゃない?って思うな。例えば、「揚げ足とって韻を踏むのがすごい」というテンプレートができているのだとすれば、それはもうMCバトルじゃなくて「少年の部」とか「初心者部門」でいいじゃん、と思ってしまいます。本当に「MC」としてかっこいいものが評価されれば、面白い!って思いますね。

もちろん、バトルだけでは判断できないけど、例えば輪入道はバトルを見ててもすごいなって思うかな。自分で言葉を吐くたびに、それに影響されてしっかりテンションが上がっていって、それがグルーヴになっている。まさに「MC」だな、と思いました。あとは、BBPやKOKで思ったんだけど、スナフキン。普段からわりと仲良いんだけど、バトルであたって「目の前でこんなに韻踏まれたらもう無理!キツい!やめて!」って本気で思いましたね(笑)

—先日のBBPしかりですが、大会に出られるときに、意気込みなどはあるでしょうか?

とりあえず、優勝(笑)。俺、優勝経験はあるけど、常勝っていうことはないから、それは悔しいというか、やっぱりムカつくんですよね、自分に。出る限りは優勝しないと、きついことの方が多いじゃないですか。例えば、動画で上がったラップがすごい見られたりしていて、「でもそれ、俺が負けてるやつだし!」みたいな(笑)。だから、出るとしたら優勝、としか思っていないですね。

—PONYさんが、HIP HOPで一番好きなところってなんですか?

ゼロからでも楽しめること。あとHIP HOPというツールがあることで、言葉の壁はあれど、年齢とか肌の色関係なしに、リンクしてジョイントできるところがすごい好きで。HIP HOPを通して出会った人や仲間たちも多いから、そこには感謝もしているし、楽しいところだと思っています。あと、新しいことを常に生み出そうとしてものづくりをするから、出来上がった時も超楽しいですよね。

俺、カルさん(カルデラビスタ)とよく話すんだけど、「困った時はHIP HOPだよね」って。何か困ったことがあった時も、HIP HOPから得た概念をぶちかますと、状況を打破してこれた。それに同意してくれる人たちと一緒にいる感じですね。HIP HOPで得た概念やフィルターが人生の進め方を選ぶ基準になっていると思います。

(聞き手:KANEKO THE FULLTIME 構成・文:Yasco.)