“MUROさんっぽいDJ”をする、「妄想MUROナイト」から生まれた、MOUSOU PAGER。インタビュー後半では、MOUSOU PAGERの創作へのこだわりや、今までDJとして活動してきたSir Y.O.K.O.PoLoGod.さん、showgunnさんが、ラップを始めてから感じたこと、MICROPHONE PAGERへの熱い想いなどについて、お話を伺いました。
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“MOUSOU PAGER”はこの歳だからできたこと
showgunn:いわゆるラッパーの人たちと、僕たちは出発地点が違うんですよね。例えば、「HIP HOPシーンを変えてやる」とか、そんな思いは一切ない(笑)
Sir Y.O.K.O.:だって自分達の好きなことしかやってないから、変えられるはずがないよね(笑)
showgunn:そうそう、基本的に僕たち3人は、みんなただのオタクなんですよ。HIP HOP好きすぎて、おかしくなっちゃったんです。
Sir Y.O.K.O.:90年代のHIP HOP至上主義者みたいな人っていると思っていて、その気持ちもわかるし、僕たちがやっていることもそう思われているのかもしれないですけど、僕は仕事柄、今のラップ……トラップ、サウス、日本のものだけでなく、USとかも普通に聴くし、かっこいいな、と思う曲がどんどん出てくる。showgunnも、最近の若手ラッパーの曲をめちゃくちゃ聞いてますし。
ただ、自分がやるとしたらそれではなかった、ってだけなんですよね。色々ある中で、一番好きなものを自分達でもやってる、ということなんです。
トラック制作に関しても同じですね。あと、僕らは90年代にこういう曲を聞いていたけど、当時は作れなかった。でも今になってみれば、知識も増えたし機材もいじれるし、そういう音が作れるようになった。だからやれるようになったのが今だった、っていう感じ。ずっとラップを聞いてたけど、この歳だからできたこと、というか。
—トラックは特に90年代HIP HOPだな、と思いました。
Sir Y.O.K.O.:トラックに関してはやっぱりこだわりがありますね。MOUSOU PAGERの中で、一番MICROPHONE PAGERっぽい部分が出せているところをあげるとしたら、僕はトラックだと思います。Kumaくんと、たまに僕が作っているんですが、機材からこだわっているんですよ。
KumaくんはAKAIのサンプラー名機MPC使いとして知られてますが、彼はレコードからのサンプリングが大好きで、音をかなり突き詰めている人間なので、90年代っぽいトラックを作っているうちに新しい機材も揃え始めたりして。
ちょっとオタクっぽい話ですが……HIPHOPの歴史を語る上で欠かせないサンプラーにE-muSP1200っていう機材があるんですが、その機種の初代モデルのアップデート版、SP12 TURBOを制作で使用しています。SP12は、内臓メモリーに収録可能なサンプリングタイムがトータルで4~5秒なんですよ。長いサンプリングが出来ないので、例えばループしたいドラムパートをBPM200近くの早回しでサンプリングしたあと、機材の機能でBPMを落として再生すると、80年代後半~90年代特有の粗くて野太いビートが作れます。もちろんこれは本来の使い方ではなくてHIPHOPの先人が発見した発明です。
僕らはそれがかっこいい!みたいな刷り込みがあるから、あえてまわりくどくてもローファイな音が出せるSP12を使って、そういう再現もしていたりします。
それとエンジニアを頼んでいる8ronixくんも僕たちと同世代で、90年代HIP HOPを通っているし、僕らをわかってくれる存在。リリース音源化をするときに大活躍してくれる第4のメンバーです。
—MOUSOU PAGERさんの曲を聴いたあとに、「サンプリングなのかな」と思って改めてMICROPHONE PAGERの曲を聴いてみたりもしましたよ。
showgunn:MOUSOU PAGERを聴いて、MICROPHONE PAGERを聴き直そうと思ってくれる人がいるのは嬉しいですね。
あと、そもそもMICROPHONE PAGERが活動している時代にMOUSOU PAGERなんてできないじゃないですか、ただのパクリなんで(笑)やっぱり活動休止からしばらく経っている今だからこそ、できるようなところもあるかなって思いますね。
「ラップが好きで、楽しい」んだったらやればいいじゃん
—ラップ活動を色々と展開されてみて、いかがでしたか?
showgunn:僕は普段サラリーマンで、たまに友達のパーティーとかでDJやるくらいでしたけど、やっぱりラップを始めて人生は楽しくなりましたね。
日本は特に、「こんなのHIP HOPじゃない」っていう”HIP HOP警察”がすぐに発動するんで、SNSを見ていても、今のブームに対してとやかく言いたがる人は多いですけど、僕自身は、みんなラップしたければすればいいじゃん、って思います。盆栽とか、草野球とかフットサルみたいに、趣味の1つとして、ラップがあってもいいんじゃないかって。
Sir Y.O.K.O.:そうだね。”HIP HOP警察”っていう話があったけど、今はその呪縛に囚われて、ラップすることを断念するのは勿体無い。ただ、自分が通ってきた90年代は始めるにも敷居が高かったし、殴られたり危ない目に遭ったりするような話もあったから、ある程度の気合いと、覚悟を持ってやることが必要とされてた。DJも比較的そういうところはあったけどね。
showgunn:DJについても、明らかに昔よりやりやすくなってますよね。昔は、DJするにも大量のレコードを持ち歩かないといけなかったけど、今ではUSBとかアプリとかでもできるわけで。機材を作っている会社も、なるべく手軽にDJができるような機材を作っていて、だからこそ実際始める人がいるわけじゃないですか。だから、個人のこだわりはそれぞれあると思いますけど、そういう企業の努力を否定するようなことをするのは変な感じがするんですよね。
ただ、自分がプレイヤーになったからといって、知ったかぶりをしたり、偉そうにしたりはしない方がいいな、と思います。例えば若い子がラップを始めてステージに立っているとしても、ラップが好きでずっと聴いてきたおじさんリスナーと比べて、HIP HOPの知識があるかと言ったら、必ずしもそうではないわけじゃないですか。「自分は卵を産んだことはないけど、オムレツの味は鶏よりもわかる」っていうのと同じで、やっぱり謙虚でいた方がいいんじゃないかな、と個人的には思いますね。
Sir Y.O.K.O.:カルチャー自体は、新規で入ってくる人たちに助けられてる面もあるわけですよね。DJをやるってことが一般化してきたからこそ、残っているものもあるし、レコードなんかも再販がかかったりするし。手軽に始めた人たちによって、裾野が広がって、業界全体が潤えば存続できるっていうか。
showgunn:例えば、90年代に日本語ラップをたくさんリリースしていたcutting edgeって、エイベックス傘下なんですよね。エイベックスってバビロンの象徴みたいに言われていたこともあったと思うんですけど、エイベックス自体が儲かっているから日本語ラップにもお金を投資できたわけで。
そういう風に、お金が集まっているところにいる人が目をつけて、結果として別の文化を推し進めてきた、みたいなこともあると思うんですよね。だからcutting edgeのことを考えると、何事も一面的には言えなかったり、意外な形で恩恵を受けてカルチャーが盛り上がったり……ということも、たくさんあると思いますよ。
Sir Y.O.K.O.:今cutting edgeのこと考えてる人はあんまりいないと思うけどね(笑)
そういうところで言えば、MOUSOU PAGERは気軽にやっている、っていうことだよね。
—個人的には、今ラップを始める人って、動画という過去の知見に簡単にアクセスできたり、年齢が上の人であれば、ある程度処世術を身につけていることもあって、割と「こうすればプロップスを得られる・有名になれる」というところに飛びつきがちなところもあると思うんです。その結果、自分の目指すラップだったり、成果だったりを得られないときに行き詰まって離れてしまう、というケースはあるように思います。
showgunn:そうですね……でもやっぱり、「あそこでライブしたい」とか「アルバムを出したい」みたいな目標を立てて気負ってしまうのではなくて、音楽が好きで、楽しいからやる、っていうのがいいんじゃないかと思いますよ。
僕らも、ライブをさせてもらったり、レコードが出たりしたのとかって、「夢が叶った」とかではなく、あくまでも「結果」であって、始めたときにはそもそも想像もしてなかったことですし。ラップをすること自体がすごく楽しかったので続いていますね。
おこがましいですけど、我々はすごく機会に恵まれたんですよね。だから、「楽しんでやっていたら、結果的にそうなることもあるかも」くらいの気持ちでみんなやったらいいんじゃないかな。「こういうラップがしたい」っていう部分に関しては、もう練習するしかないですよね。
Sir Y.O.K.O.:showgunnも練習してるの?
showgunn:練習してますよ!……嘘です(笑)
Sir Y.O.K.O.:二人でラップし合うとか、全然ないもんね(笑)。だってクラブとか行ったらさ、2000年代でもサイファーしてるやつなんていっぱいいたじゃん。でもさ、恥ずかしいんだよね(笑)
showgunn:やってる人を見て「あいつら恥ずかしいやつだな」とかは全く思わないですよ。ただ、自分たちがやるのは恥ずかしいんですよ。
Sir Y.O.K.O.:人前に立つこと自体に抵抗はなかったけど、最初のライブの時はずっと下見てラップしてたよね(笑)。
そう、ラップし始めてからひとつ変わったことがあって……僕らもともとはDJですけど、急にラップし始めた結果、「こいつ本気で頭おかしくなったんじゃないか」って感じてる昔からの知り合いもいるみたいで、なんだか最近旧知の友達が減った気がするんですよ(笑)
showgunn:(爆笑)
Sir Y.O.K.O.:DJとしての僕を知ってる人からしたら想定外過ぎたのかもしれませんね(笑)
僕は限りなく個人店に近いスタイルのレコ屋で、まったく堅苦しい職場ではないし、音楽という意味では活動と仕事がある程度つながるんですけど、他の2人はサラリーマンだから、僕以上に表に出しきれない部分もあるのかな。会社では言ってないんでしょ?会社の人にバレたらどうするの?(笑)
showgunn:いや、別人だって言い切りますよ。(MUROさんっぽく)「あぁ、結構似てますね〜」って。
Sir Y.O.K.O.:……なんでMUROさんっぽくなってんの(笑)
MICROPHONE PAGERが再結成したら、我々は解散です(笑)
showgunn:僕ら、MUROさんのことが好きすぎて、ご本人にも気持ち悪がられてるんじゃないかと不安なんですよ。
Sir Y.O.K.O.:「あいつらは常に俺の話してるんじゃないか」って勘ぐられてるかもしれないね(笑)。
showgunn:僕は、MUROさんが昔やってたブランドの服をメルカリで検索して買い集めてるんですよ。KING OF DIGGIN’だけじゃなくて、incredibleってブランドだったり、MUROさんがやっていたショップのSAVAGE!とかもあるので、10パターンくらいのワードで毎日検索してますね。
で、MUROさんがDJされるときとかにそれを着て行って、お声かけして、「あ〜、こんな服あったね〜」って言われて、一緒に写真撮ってもらって……これでメルカリで買った分の元は取れたかな、っていう、そういう活動をしてるんですよね(笑)
Sir Y.O.K.O.:僕はレコ屋なだけに、MUROさんと仕事上でのお付き合いもあるので、その辺は一歩引いてます(笑)
showgunn:僕はその点、悪い意味で、ただのファンとしての図々しさがありますね。でも僕がメルカリでMUROさんの服を買うことと、MOUSOU PAGERの活動は地続きなわけですよ。愛情表現の一つですから。
MOUSOU PAGERの曲がダサいとか、僕のラップが下手だとか言われる分には、聴いた人がそう感じた、ということなんでむしろありがたいくらいですけど、「その程度のPAGER好きで、”MOUSOU PAGER”なんて名乗ってんじゃねえよ」っていうdisだけは当てはまらないと思いますね。
実際にそういうことを言う人がいるわけじゃなくて、90年代日本語ラップを聴きすぎたせいで、仮想敵を作ってるだけなんですけど(笑)ただ、そういうことを言われても、それだけは違うって言えますね。僕はこんなにMUROさんのことが好きだぞ、と。お前メルカリで毎日チェックしてるのか、と(笑)
Sir Y.O.K.O.:MICROPHONE PAGERへの愛情、という点では馬鹿にされないと思いますね。showgunnはそういうアイテムを揃えたりしているし、僕やKumaくんはそういう愛情表現が、MIX作品や90年代っぽい再現をするための機材に向いているんだと思います。
こういう話をすると、ラップを始める敷居が高くなりそうだけど(笑)、好きだからこういうことやってる、ってだけですよ。ただ我々の愛情のアウトプットが、”オタク”っぽいものに着地した、というだけで。まあ、好きなものに対する「少年の心」を忘れない、っていうことなのかな。
showgunn:そうそう。だからさっき、「こうすれば有名になれる」って話がありましたけど、名前をあげてお金を稼いで……ってことのためにラップするなら、bitcoinを買ったほうが確実だと思いますよ(笑)
野球選手だって、金も欲しいだろうけど、野球が好きだから選手になったわけじゃないですか。給料が下がってもアメリカのマイナーリーグを目指すのって、憧れとか、好きって気持ちがベースにあるからだと思うんですよ。もし金儲けがしたくて野球でプロになってたら、それもそれですごいですけど。それと同じで、「ラップが楽しい」っていうのが出発点でいいと思うし、その方が続くんじゃないかな。
あとはSNSとかで、「有名な人と共演しました!」って誰彼構わず言っている人を見ると、「そういうことじゃなくて、音楽が好きだったんじゃないの?」って思ってしまうな。僕は好きな人に届いてくれればそれでいいと思っているので。……MUROさんが僕らの曲を聴いているかどうかはわからないですけど(笑)
Sir Y.O.K.O.:一応毎回新譜が出たら、MUROさんにもお渡しはしているんですが、聴いてくださっているかはわかりません。こちらから評価を確認するのが怖いので(笑)。TWIGYさんは聴いてくれて、「面白い」と言ってくださったので安心していますが。
—MOUSOU PAGERさんの今後の目標は。
Sir Y.O.K.O.:MICROPHONE PAGERは今事実上活動休止しているじゃないですか。だから我々がアルバムを出す際に、メンバーの皆さんに「参加してください」と声をかけて、うちらは参加しない(笑)
showgunn:聴いてみたら、「あれ?これMICROPHONE PAGERじゃん!」っていう(笑)
Sir Y.O.K.O.:それが実現したら、我々は解散なので(笑)
showgunn:もしくは、MOUSOU PAGERを聞いたMICROPHONE PAGERの皆さんが、「こいつらダセえな、やっぱり俺たちがやらないとダメだ」って言って再結成する。そしたら、即解散ですよ(笑)我々の目標は果たした、と。
Sir Y.O.K.O.:逆に僕らを解散させたければ、MICROPHONE PAGERを再結成させてくれれば(笑)。冗談ですけど、実現したらそれ以上のことはないです。自分たちの曲を褒めてもらうのももちろん嬉しいですけど、それが叶えば一番嬉しいですね。
(聞き手:Yasco. KANEKO THE FULLTIME 構成・文:Yasco.)
▼MOUSOU PAGER
このグループを形容するような言葉はそう見当たらないが、強いて言えば伝説のラップグループであるMICROPHONE PAGERから極度にインスパイアされた、現行シーンにおけるBoomBapの救世主。メンバーにはMIX-CD 「64SOURCES, and ASSGIN」、DOTAMA and Kuma the Sureshot 「DIRECTORY」のリリースも話題を呼んでいるトラックメイカー、DJ Kuma the Sureshot、DJユニット、Threepee Boysのメンバーであり「Legend Of Japanese HIpHop Flyer」編集人、PAYME代表、トラックメイカー、ラッパー、インスパイア系POLOのアーカイバー、Sir Y.O.K.O.PoLoGod.、King Of Twitterの愛称を持つラッパー、showgunnからなるMICROPHONE PAGERを愛して病まない、何事も革ジャンの高い襟で充分なバンド仲間3人によるラップグループ。
2016年にマンハッタンレコーズより12inch/EP「MOUSOU PAGER EP」、2017年11月に7inch 「360°~Three Scrappin’Stuff/キキタリネエカ」をリリース。
【Sound Cloud】
https://soundcloud.com/mousou_pager66
【Discogs】
https://www.discogs.com/artist/5113364-Mousou-Pager
【MOUSOU PAGER LIVE SCHEDULE】
・2/10㈯ オールナイト
@ 下北沢 THREE
「スタンバイOKで〜す♥」
・2/11㈰ デイ
@ 渋谷 UNDER DEER LOUNGE
「hard acid no gain」
・2 /24(土)デイ
@ 渋谷WOMB
「ササクレHIP HOP 2018」