SUKIKATTE 編集長から一言 KANEKO THE FULLTIME

ー今回のメディアのコンセプトは「『やりたいことをやる人生』に一歩踏み出す人を応援するインタビューメディア」としましたが、改めてその経緯を教えてください。

もともとBRT(ビジネスマンラップトーナメント)のオウンドメディアとしてスタートしたものを、この度独立させることになりました。背景として、BRTっていうイベントやその周りの出来事を通して、「何かを始めることのハードルを取っ払う」ってすごく大切なことだと思っていたんですよね。BRTは、HIP HOPやラップに興味がある一方で、「ラップやってみたいけど、俺たちただのファンだしカラオケでいいや」とか、「バトルは若い子ばっかりだし、みんな上手そうだから出なくていいや」って思っていたような人をターゲットにした結果、参加したみんながサイファーに行き始めたり、楽曲を作るようになったり、ラップに熱く取り組むようになっていきました。
やってみたい、と思っていたことに対して、「やってもいいんだよ、できるんだよ」っていう場を設けることで、参加した人の人生がプラスに輝くっていう現象が起こっていたと思います。それがすごくいいな、と。

だから、「やってみたいこと」というマグマが溜まっていた時に、そこに「今更始めるのも面倒だな」「どうせ何にもなれないな」「忙しいし」みたいな思い込みの蓋がされているのを、外してあげるようなことができるといいな、と思ったし、BRTというイベントに限らず、幅を広げてそういう投げかけができるんじゃないかな、と思って、今回のコンセプトでのリニューアルを決めました。

ーそういう投げかけをしたい、と思ったきっかけは?

世の中的に、「副業ブーム」とか、「働き方改革」とかって言われていて、生産性をあげてより良く生きましょうねっていう考え方があるけど、それってあくまでも、経済的合理性の文脈に則ってるなと思うんですよね。人口が減るから効率をあげて、一人頭の稼ぎを増やしましょう、とか、仕事がAIに奪われるかもしれないから、いろんなことをして自分の市場価値を高めましょう、とか……それって、人生をどう楽しく生きるか、っていう個人の問題とは全く別の文脈で、もっと上を目指そう、っていう資本主義的な価値観があると思うんですよ。それって、例えば「いい会社に入るためにいい大学に行きましょう」「出世するためにこれをやりましょう」っていう考え方とも近しいじゃないですか。

でも本来は、そういう「褒められた生き方」をしましょう、というのではなくて、楽しいことをやろう、友達と遊ぼう、表現をして誰かに何かを還元しよう、みたいな合理性重視じゃない生き方ももっと肯定されていいじゃん、と前々から思っていたのは大きいですね。

ーKANEKOくんは東大に入って、ダブルダッチで世界チャンピオンになっていて、そのあと大手の企業に入っていて、経歴だけ見ると「意識高い」とも捉えられかねないとも思うのですが、いわゆる「褒められた生き方」はしてこなかった?

興味に対して突き進んだ時に、この生き方になった、っていう方が近いです。俺は、やりたいことはできるまでやるけど、やりたくないことは一切やらないし、一切できないっていう、能力の五角形があった時にめちゃめちゃ偏ってるタイプなので、苦手なことも多いんですよ。だから、期待してもらったり、褒められるのはもちろん嬉しいけど(笑)世間一般に褒められることそのものや、成果を自慢するためにやってきたわけではないですね。

どちらかといえば、東大に行くってことは俺の地元では結構珍しいことだったから、単純に変なやつ・面白いやつって思ってもらえると考えていたのが大きいです。「変」な存在になったら、それが笑いになるじゃないですか。例えば友達とくだらない下ネタとかでめっちゃ盛り上がったとき、友達から「お前東大行ったのにそんな感じなの」って笑われると、プラスαの面白さが一つ増える。だから、どこかしらで結果を残して自分の中に貯めていけると、みんなでニコニコ生きていけるって思っているから、それが一番価値があると思っています。

逆に、いい大学・いい会社に入ったからといって、変に自分を飾ってドヤっている人を見ると、人を騙しているようにしか見えないんですよね。リアルじゃないし、それは周りの人間を粗末に扱っている、とも言えると思う。だから、いい成果を出せたとしても、地に足の着いた存在でいたいなとは常に考えています。

ーさっき「能力の五角形」という話が出たけど、自分が得意なことや好きなことを見つけるのも結構難しいと思います。今回のメディアで「好きなことを躊躇せずやってみよう」ということを投げかけていくときに、そういう状況に対してどういう働きかけができると思いますか?

学生の時って、責任もあまり大きくないから、興味を持ったことに時間を割いたり、自分の環境を自由に変えたりしやすいですよね。だから得意なことも見つけやすいと思いますし、俺自身もそうでしたが、働くようになると、それがなかなか難しいと感じています。

その中で、物事を好きになったり、得意になったりするには「やってみる→褒められる→好きになる」っていうステップがあると思います。褒められるところに達するためには、本人の努力やセンスが必要だけど、まずはやってみないとそれもわからないので、始めるための環境をとりあえず作ってみる、というのが大事だと思うんです。その「やってみる」プロセスを、このメディアが後押しできる存在になれればいいな、と考えています。

俺自身も、はじめはMCバトルなんて自分が出るようなものじゃないと思っていたし、「人の悪口を言うのは得意だからいけるかな」とか思ってたけどなかなかうまくいかなくて……でもやっているうちに、例えば一緒にやっている友達とか、イベントに来ている知らない人から「よかったよ」と声をかけてもらうようになって。その一言一言によって、自分がこれまでただ見ているだけだったものが、自分の身近に降りてきた、っていうのは絶対にあったから、まずはやってみようよ、と言っていきたいですね。

今のご時世、たくさんメディアがあって、情報の価値はどんどん薄まっていると思うんですが、一方で「思想」の価値は薄まらないと思っています。思想=物の見方はたくさんあった方が良いし、メディアでは、いろんな方面の「やりたいこと」と、それに対して今一線でそれに向き合っている人たちの思想を見つけていければと思っています。

KANEKO THE FULLTIME
1990年生。
中学3年生の時、偶然インターネットで見つけた「キングギドラ」や「MSC」の楽曲を聴いてヒップホップに傾倒。
現在は広告会社に勤務する傍ら、MCバトルへの出場や、ダブルダッチ(2015年世界大会優勝)を続け、ストリートカルチャーの理解・啓蒙をライフワークとしている。